横浜市の劇場整備について、他都市事例の調査研究。

2019-11-27 23:24:21 | カテゴリ:活動報告


横浜市劇場整備

11月27日、所属する会派「立憲・国民フォーラム」の有志で、「滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール」と、「愛知県芸術劇場」に調査研究のため訪問しました。横浜市では現在、劇場整備についての検討が行われています。現時点では「横浜市新たな劇場整備検討委員会」による議論となっていますが、今後の方向性を考える上で、参考にしていくために視察を行いました。市長が示してきた劇場のイメージは、オペラやバレエの開催できる劇場となっていますので、相応の規模、そして大きな予算が必要となります。
(※参考:藤崎浩太郎の劇場整備に関する質疑。2019年10月8日政策局決算審査より。)

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

1ヶ所目の訪問は滋賀県大津市に位置する「滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール」。1998年に完成したホールで、4面ステージを備える、日本トップクラスの規模の劇場です。同等の規模だと、東京の新国立劇場、愛知の愛知県芸術劇場、そしてびわ湖ホールの3館しかないということで、「西の横綱」とも称されているそうです。観客席は大ホール1,848席。18m四方のステージが4面。客席の奥行は36mで、オペラを生声で演じるには最大限の大きさということで、2,000席を用意すると更に奥行きが必要となり生声が難しくなる、という規模感とのことでした。

建設費用は245億円。駐車場等を含めると300億円を超える費用で整備されています。施設自体は県が所有し、管理運営を「公益財団法人びわ湖芸術文化財団」が指定管理者として受けている方法です。年間10億円近い指定管理費の中には、4,000万円程度の修繕費が入っていますが、大規模な改修のための予算は積み立てられてきていませんでした。そのため、数年前から大規模な改修工事を行うにあたり、県が70億円の予算を新たに計上することになったといいます。

2008年頃には一度、閉館の議論も起きたそうです。オペラなどは一般的には敷居の高い公演でもあり、びわ湖ホールを閉館して、予算を福祉に回そうという提案が県議会で出てきたそうです。その際全国から閉鎖反対の署名が集まり、閉鎖にはならなかったそうです。一方で敷居を下げる工夫に取り組み始められます。その工夫は、県内の小学生をホールに招いて、交響楽団や声楽アンサンブルの公演を、1時間楽しんでもらうプログラムの実施でした。今年は1万人の小学生が来館するまでになっていて、また、この取組以来批判の声も収まったといいます。現在は、世界レベルのオペラ等の公演を観てもらうことと、教育・普及活動を実施することという、2本の柱が運営方針となっているそうです。

自主制作は年に大ホールで2公演、中ホールで2公演程度とのことでしたが、自主制作に充てられている予算は1億円程度。そのうちチケット収入でまかなえるのは半分程度ということでした。それ以外は貸館としての運営で、全体の稼働率は85%程度となっています。年間の収益は20億円程度で、その半分の10億円程度が指定管理料。その他に、国や県の補助金、民間の助成金などがあり、入場料、ホール利用料などの収入があります。
(※びわ湖芸術文化財団の財務資料などはこちらからご覧いただけます。ただし、「滋賀県文化産業交流会館」の管理も行っているため、両館の合計となるため、びわ湖ホールのみの数字は上記説明のあった内容になります。http://www.biwako-hall.or.jp/profile/report/

2020年3月に上演される新制作の「ワーグナー作曲ニーベルングの指環第3日「神々の黄昏」」は、もともと神奈川県民ホールとの共同制作の予定だったそうです。しかしながら、神奈川県民ホール側が収益性の観点などから難しいと判断し、直前に共同制作から降りてしまった、ということがあったとのことでした。結果的に、2日間の大ホールでの公演チケットは即日完売になり、また、神奈川県民ホールよりもびわ湖ホールのほうが規模が大きいため、神奈川県民ホールの設備にも合わせた制作ではなく、完全にびわ湖ホール向けの制作にできたことで、びわ湖ホールの設備を最大限に活用した公演に仕上げることができたといいます。

これまでのオペラでの来場者の内訳については概ね、滋賀県からが25%、京都府20%、大阪府20%、兵庫県9%、愛知県9%、東京都9%、神奈川県2%くらいで、広い範囲からの来場があります。貸館としての利用では、アイドルのコンサート等にも利用されているものの、京都市内に2016年にオープンした「ロームシアター京都」が2,005席のメインホールも有しているため、より大規模な会場を求める興行主が京都を選ぶようになって、競争環境が厳しくなっているという課題もありました。

びわ湖ホール
びわ湖ホール観客席

びわ湖ホール
びわ湖ホール舞台側から見た観客席

藤崎浩太郎
舞台上にて

愛知県芸術劇場

2ヶ所目には、名古屋市に位置する「愛知芸術文化センター」を訪れました。芸術文化センターは県立で、愛知県芸術劇場のほか、愛知県美術館と愛知県文化情報センターの複合施設となっています。またセンターとしては、別の建物の愛知県図書館も合わせての運営になっています。芸術劇場等の入る栄施設は1992年に開館し、地上12階、地下5階の建物は、628億円の建設費となっています。この建設費は施設全体のため、芸術劇場の部分だけの建設費について確認したものの、残念ながら分からないとのことでした。

施設の老朽化に伴い2016年から3年かけて、栄施設全体での休館を伴う改修工事が行われ、今年の4月に全面リニューアルオープンを迎えていました。天井の耐震補強や、パイプオルガンのオーバーホール、トイレの洋式化、カーペットの張替え、照明のLED化などが行われて、全体で116億円の改修費となっています。こちらも全館に渡る改修ということで芸術劇場のみでは分かりませんでしたが、美術館とコンサートホールの部分で、約36億円の改修費だったとのことでした。

愛知県芸術劇場の大ホールは2,480席となっています。オペラやバレエの公演を主な目的として整備されていて、近年はアイドルのコンサート等にも利用されています。コンサートホールについては、クラシック専用として整備され、近年ではコスプレサミットでも利用されるなど、幅広く活用されています。芸術劇場と文化情報センターについては、2014年度から指定管理者制度に移行していて、今年の4月から第2期が始まっています。「公益財団愛知県文化振興事業団」が指定管理者として任意指定されていて、年間10億円の指定管理料となっています。この指定管理料も、芸術劇場と文化情報センターとの合計であるため、内訳はわからないとの説明でした。
(※公益財団愛知県文化振興事業団の財務資料などはこちらからご覧いただけます。https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/about/foundation.html

今回の改修では、大ホールの3面あったステージを、2面利用に減らしたと言います。この1面削減するという策は、前向きに捉えた取り組まれたそうです。自主制作でオペラやバレエに取り組んできたなかで、2面でも芸術機能を維持できるのかという質問も行いました。びわ湖ホールや愛知県芸術劇場が整備された頃と今とではだいぶ時代が変わってきていて、特に映像技術の発達によって、舞台そのものを移動させることでの場面転換から、映像を使った場面転換を行うようになっているといいます。映像を活用すれば、2面あれば十分上演が可能になってきているといいます。また、愛知県芸術劇場だけでの公演であれば愛知県芸術劇場のフルスペックでの演目を制作できるものの、通常は東京など全国で上演することを前提に制作されていて、そのため一番小さな劇場構成に合わせた制作となるため、2面あれば十分とのことでした。この辺の話は、びわ湖ホールの「神々の黄昏」とも通じる話です。自主事業として取り組まれたオペラ「カルメン」は「共同制作」となっていて、神奈川県民ホールと札幌文化芸術劇場との共同制作でした。愛知県芸術劇場の制作費負担は4,800万円で、チケット収入は2,500万円ほどで、その他に補助金なども収入源となっています。

ここの話のポイントは共同制作です。愛知県芸術劇場整備当時は、各館が独自で自主制作を行う時代だったものの、現在オペラは共同制作が主流で、単館で制作されるものはあまり無くなっているそうです。近年は館同士のネットワーク化が進み、予算的にも共同制作でないと自主制作をできなくなっている状況でした。海外も似たような状況だと考えられ、船便などでセットを輸送するにもコンテナ数が少ないほうがコストが抑えられます。過去には11トントラック25台で搬入されたということもあったのが、最近は4〜5台程度で組めるような規模が多くなっているとのことでした。また技術の進歩が著しいため、どのレベルでの整備を行うかは課題で、最新鋭のものを整備してもすぐに技術が陳腐化するため悩ましいようでした。

藤崎浩太郎
質疑にも熱が入ります

愛知県芸術劇場
愛知県芸術劇場観客席

愛知県芸術劇場
愛知県芸術劇場舞台側から見た観客席

Post comment