図書館整備の駅前複合施設での可能性。大阪市図書館視察。

2023-07-07 00:45:47 | カテゴリ:活動報告


大阪市立中央図書館

2023年7月4日、大阪市立中央図書館へ視察に訪問しました。今回の視察の目的は大きく2つで、(1)淀川区役所跡地における図書館整備についてと、(2)中央図書館の施設活用と役割について。

横浜市と大阪市の図書館の現状比較

私はこれまで横浜市の図書館を増設することを求め続けてきました。その理由の1つは、政令指定都市20市の中で、人口比でもっとも図書館が少なく、アクセス性、利便性が悪いということがあります。

横浜市は「1区1館」という方針で図書館を整備してきました。大阪市も横浜市と同様に、24区ある行政区毎に1館ずつ図書館が整備されていて、中央図書館1館と地域図書館23館という位置づけになっています。

横浜市は人口約377万人に対して図書館18館ですので、人口約21万人に対して図書館1館。大阪市は277万人に24館ですので、約12万人に1館で、人口比でいうと大阪市は横浜市の倍近い図書館の配置となります。また横浜市の面積は約438平方キロメートルですので、約24.3平方キロメートルに1館。大阪市の面積は約225平方キロメートルですので、約9.4平方キロメートルに1館と「同じ1区1館」での整備とはいえどもアクセス性・利便性には大きな違いがあります。

図書館

図書館のアクセス性・利便性の課題

淀川区役所跡地は十三駅から近い場所にあります。横浜市で今後新たな図書館を増設したり、建替たりするとした場合の整備方法の1つとして、駅前の既存の民間ビルへの図書館の入居や、駅前再開発事業での図書館の新設は、重要な選択肢だと考えています。(※参考:横浜市会での議論2020年12月12日)駅から遠いとか、駐車場が少ないとか、交通アクセスに問題があれば、どんな立派な図書館でも頻繁に利用することが困難になります。普段の買い物や、通勤・通学のついでなどで、図書館を利用できる環境が重要だと考えています。都筑区の図書館は、市内で中央図書館に次ぐ2番目に入館者数の多い図書館です。センター南駅から徒歩6分程度の距離で、地下鉄が2線利用でき、周辺には商業施設が多いためついでに立ち寄ることもでき、区役所等と合築されていることで駐車場も多いなど、アクセス性の良さがその理由とされています。

淀川区役所跡地活用における図書館の整備

淀川区役所跡地は、阪急電鉄十三駅から徒歩3分の好立地にあります。2009年に区役所が移転したことで、当該地の区役所は廃止となりました。それ以来約10年間に渡って具体的な活用についての議論が進まない状況下で、2019年に当時の公募区長が市の戦略会議において、図書館整備を提案し、承認をされるという形で、図書館の建替事業がスタートしていきます。公募区長が就任した2012年当時は武雄市のTSUTAYA図書館(2012年指定管理者決定)が注目され、新たな図書館像が示されていた時期であり、橋下市政下で公有財産の活用についての提案システムもあったそうです。

現行の淀川図書館は入館者数や閲覧室面積、閲覧席数などがほぼ市内最下位状況にあり、地域図書館23館中7番目に古い建物であるという状況でした。2013年に行われた跡地利用に関する意見公募で図書館整備が56%と1位になり、区民モニターアンケートでも図書館の支持率が50%で1位となるなど、淀川区民から図書館を望む意見が多数寄せられていました。

一方で、当時の大阪市の考え方としては「未利用地は原則売却」という方針があり、図書館を整備するにも売却よりも財政負担上優れている手法を見出す必要がありました。そのため、PFI等の手法を検討しながら、十三地区のブランド向上、にぎわいづくり、交流促進につながる民間複合施設を、一般定期借地方式による民設民営で整備することが定められ、事業者選定が行われていきました。

こうした経緯により、図書館整備を行うために、民間事業者との公民連携の事業としてのスキームが確定し、市立図書館を中心に、専門学校、保育学童施設、スーパーマーケット、分譲住宅が整備される、39階建ての複合施設を中心とした事業計画が発表されます。

図書館建替の考え方

この時点で「図書館の建て替えの順序」の問題が議論されています。上述の通り、淀川図書館は「7番目」に古い図書館でしたので、もっと古い図書館もあり、なぜ淀川図書館を先に整備するのかということや、その他の図書館の建替整備をどう考えていくのかが課題となり、2016年9月に「地域図書館の建替整備について基本的な考え方」がまとめられています(2022年3月31日改定)。基本的な考え方策定以前にも図書館の建替が行われていたものの(9館)、整備方針がなかったという課題もあったようです。

この建替整備の考え方では、第一に「大阪市公共施設マネジメント基本方針」等に基づいて、建物の長寿命化を図ることが示されるとともに、区民センター等の建設・改築時期に合わせて検討することで複合化や効率化を図ることがしめされています。そして建替整備にあたっては、蔵書冊数10万冊、延床面積は1,200㎡程度という、基準が示されています。

当初の計画では図書館は「ワイガヤ図書館」と称されて、地域コミュニティを形成する交流型の図書館が目指されていました。事業用地内に整備される専門学校の法人が運営する学校図書館とフロアを同じにし、にぎやかな図書館像が目指されたようですが、区長も替わり、計画も変化し、子どもたちが利用するエリア以外は、図書館内は基本的に静謐な空間で設計されているということでした。

現行の淀川図書館は、十三駅から徒歩10分ほどの離れた場所にあったことと、淀川区内でも南端にあることから、区民のアクセス性に課題があったものが、駅から徒歩3分ほどの場所に移転することで、利便性の向上が期待されていました。延床面積については、620㎡だったものを1,000㎡への拡大が実現していきます。整備は現在進行中で、2026年1月竣工予定となっています。

移動図書館の利用は横浜の2.5倍!

大阪市立図書館の運営の基本的な考え方は、知識創造型図書館の機能充実を目指すことと、学校図書館の活性化に資することとされています。その中でも中央図書館は、地域図書館23館をバックアップする役割を果たし、レファレンスや蔵書の取寄などが、情報ネットワークとして24館全体で運営されています。

お邪魔して驚いた特徴の1つが、「自動車文庫」(移動図書館)です。横浜でも「はまかぜ号」という移動図書館が運用されていて、2台体制で市内30か所を巡回しています。大阪市も同様に2台体制ですが、「自動車文庫ステーション」という巡回先は、103か所にも及びます。2022年度の自動車文庫の貸出冊数は351,731冊で、横浜市のはまかぜ号の同年度実績139,920冊の2.5倍となっています。より多くの方が図書を借りられる機会を増やそうという姿勢が、数字からも読み取れます。

情報との出会いの場「Hon+α!」

大阪市立中央図書館は、基礎自治体最大級の延床面積を誇ります。1996年にリニューアルオープンし、図書館施設の活用のあり方が2019年に見直され「大阪市立中央図書館施設活用構想」がまとめられています。この構想で定められた施設活用の基本的な方針に、「Hon+α!(ほな!)」があります。

開館当時はAV(視聴覚)資料や視聴覚スペースが広く確保、提供されていましたが、ビデオテープ(VHS)の視聴・貸出サービスは2021年には停止されてきました。雑誌も休・廃刊、予算源で提供数が減少するなど、閲覧資料が変化し、床の利用のあり方が見直されます。

上記のことから閲覧スペースの一部の活用方法が見直され、中央図書館のある西区、西長堀駅近隣地域のまちづくりという観点も含めて、「Hon+α!」という空間が整備されています。具体的には、(1)市民参画・市民交流のできる空間、(2)新しい機能のある利便性の高い空間、(3)新しい魅力のある空間、(4)インターネット接続が保障された空間、(5)明るく外から見える空間、という5つの基本方針のもとで整備、活用が計画されていました。ステージも用意されていて、ワイワイとした活用が想定されていたものの、コロナ禍によりしばらくは静謐な空間として活用を余儀なくされたそうです。最近はラジオ体操を企画するなど、図書館側から「Hon+α!」の活用を仕掛け始めて、今後市民に活用されるよう展開していこうとされていました。

所感

中央図書館はネーミングライツが導入されていたり、移動図書館にも広告が導入されたり、窓口業務等定型業務の民間委託が行われていたりと、厳しい財政状況を考慮して収入源を生み出し、業務効率化を図りながらも、市民に必要な図書サービスを提供しようと工夫されていることが分かりました。企業との連携も様々行われているようで、セレッソ大阪が子ども向けの「読書手帳」を提供して、公民連携で読書活動を推進する取組も行われていますし、「Hon+α!」の整備等には森林環境譲与税が活用されていて、財源をどうにか見つけてこようという努力が見られました。

一方では、図書館建替の方針を定めて、図書館の蔵書や面積を増やすという課題に向き合い、必要な図書館整備のために様々なスキームを検討し、財政部門も納得できる手法で新たな淀川図書館整備に取り組むなど、図書館整備において重要な論点になるハード整備にも確実に取り組んでいることが印象的でした。

横浜市では「読書活動」が推進され、図書館のハード面での課題に向き合わない時期が長く続いていますし、「移動図書館」によって、図書の貸出における利便性の課題に取り組んでいるとされてきましたが、人口あたりの図書館数も、市の面積における図書館の割合も勝っている大阪市のほうが、圧倒的に移動図書館の利便性が高く、利用状況も勝っているというのは、図書館と図書サービスに関する横浜市の議論が、いかに不十分であったかを如実に示す大きな差だなと感じました。

横浜市では2023年度「新たな図書館像(図書館ビジョン)」の策定が進められています。図書館政策においては大きな前進の第一歩目になることを期待していますが、図書館の新増設なくして、極めて利便性の低い横浜市の図書館事情を解消することはできません。図書館ビジョン、もしくはその先の議論で、確実に19館以上に図書館を増やしていくことを決めていく必要があります。合わせて、移動図書館や取次サービスの充実など、ソフト面での充実を示していくことが欠かせません。横浜市当局には国内外の先進的な事例を学びながら、優れた図書館政策を推進できるよう、今後も意見交換や提案を続けていきたいと思います。

大阪市立中央図書館
大阪市立中央図書館
ネーミングライツの導入された中央図書館

自動車文庫
広告が貼られた自動車文庫の車両

hona
Hon+α!はこんな空間

大阪市立中央図書館
大阪市立中央図書館
大阪市立中央図書館
館内の様子

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