若者に1,000万円の予算提案権。新城市若者議会視察。

2023-08-08 23:38:14 | カテゴリ:活動報告


新城市若者議会

2023年8月2日〜3日、愛知県新城市に視察に訪問しました。視察の目的は(1)若者議会と、(2)市長選挙立候補予定者公開政策討論会、の2つ。

新城市若者議会

新城市の「若者議会」は、全国初の取組として注目をされてきました。おおむね16歳〜おおむね29歳の若者が、応募によって委員になり、委員、市外委員、メンター委員、メンター職員、事務局、によって構成されています。今年度で9期目を迎えていて、今期は3つの委員会(若者議会委員会、まちづくり委員会、農業委員会)に分かれて政策の検討が進められています。

新城市若者議会の最大の特徴が、毎年度1,000万円の予算提案権を持ち、ハードもソフトも含めて様々な政策を市長に提案し、議会での予算承認を経て、確実に実現されていくという点です。5月から政策検討が始まり、8月に中間発表が行われ、11月に市長に提案するという流れです。1年間で1人あたり、全体会議は15回、分科会は20回、参加するということで、活発な参加、議論が行われています。また、条例によって若者議会が設置され、条例によって事務や組織等が定義されていることも特徴です。

新城市若者議会

8月2日は19時〜21時に市役所で今期第5回目の若者議会が開催され、会場にて視察をさせていただきました。3つの委員会の委員が、4つのテーブルそれぞれに別れて配置されて、メンター委員やメンター職員らと一緒になって、各委員会の制作方針の検討状況を報告し、意見交換を行うという日でした。高校生が多いという状況ながら、20代の委員も、初参加の委員も、ごちゃまぜでテーブルが構成され、自分の所属する委員会の課題などに、他の参加者からアドバイスがなされたり、一生懸命議論がされているなと感じました。

意見交換が終わると、委員会メンバー毎のテーブルに移り、それぞれが意見交換でもらった意見を、委員会メンバー同士で共有するという作業が行われました。その間、メンターは別室に移り、メンター委員会会議が行われていました。メンターは委員OB等で構成されています。メンターにもなったばかりの人もいて、テーブルで委員の意見をどう引き出すか、メンター自身がどこまで自分の考えを発言すべきか、など運営のあり方について試行錯誤の議論が行なわれていました。メンター会議は、メンターのファシリテータースキル向上の場として機能していました。

若者議会の実績

若者議会の実績として、よく紹介されるのが図書館(ふるさと情報館)のリノベーションです。1期目〜3期目にかけて取り組まれた事例で、ハード整備の事業です。図書館を利用しやすい環境にしようと、図書館2階の郷土資料館等の改修が行なわれています。以前は、閲覧スペースを学習目的の学生の利用が独占してしまうという課題があり、郷土資料館等の改修によって机と椅子のスペースを増やし、閲覧と学習というそれぞれの目的を、それぞれの目的に応じたスペースを設けることで分離し、閲覧目的の人も、学習目的の若者も、落ち着いて使いやすい図書館へと生まれ変わっています。

「若者アウトドア観光事業」では、新城市の魅力ある「イイトコ」をフォトコンテストで募集し、パンフレットが作成され、好評だったことから第2弾も実現しています。「C&Hマッチング事業」では、新城市内外の高校生約1,800名にアンケート調査を行った結果、約70%が「新城の企業について関心がない」と答えたことから、新城市の企業が就職先となるようマッチングを行うために、「Miraie」という冊子の制作を実現しています。

現状と課題

1,000万円の予算提案権はあるものの、近年はハード整備のような大きな提案がないため、8期では3事業の提案で200万円程度だったとのことでした。一時期はもっと多くの委員会が設けられ年間10事業が提案されたことがあり、1,000万円満額に近い提案が行なわれていたそうです。その頃は今以上にたくさんの会議・委員会が開催されていたといいます。活発な意見や参加、提案が実現していた一方で、運営の視点からは細分化した委員会は構成メンバーが少なくなることで1人休むと議論が進まないという課題が生じたり、高校生の参加者が多い中で学業との兼ね合いの課題が指摘されたり、1人あたりの日当3,000円が負担となったりと、課題に向き合う必要性が生じ、現在のような開催日数、委員会構成に整理されてきたという経緯があるそうです。この点は当事者である委員やメンターからは、議論・活動に一定の制限が課されてしまったことから、自らの意志で活動を構築・展開していくという部分が弱くなったという印象も持たれるのではないかと懸念されます。

継続性についての課題が生じていて、委員からの政策提案にはイベントのような一過性の事業も多く、1回で終わる事業も多くあったそうです。また若者からの提案は、予算化されると各担当課の事業として実施されるため若者の手を離れ、各担当課が事業の効果を検討して継続されないこともあるそうです。この課題は委員の中からも出されていて、政策提案において単発の事業提案ばかりではあまり意味がないのではないかという議論も行なわれているようです。

今期の委員会の1つに若者議会委員会が置かれていて、委員会の議論を視察した際には、若者議会の認知度の課題や、具体的な中身の課題などについて、委員が議論を行っていました。全国的に注目され、新城市をモデルとして各地で若者議会やそれに似た仕組みが構築されていますが、トップランナーならではの、若者議会自体の今後のあり方の検討という課題も生じているようでした。1,000万円の予算提案権は実現可能性を期待できて、単なる提案・公聴よりも優れているものの、具体的な事業の実行は市職員が行うことになるため、若者が担い手にならない/なれないという課題も担当職員は感じているようでした。

参加者の参加動機として、まちづくりに関わりたいという動機だけでなく、人前でしゃべれるようになりたいとか、大人と交流できるとか、自分自身の成長を目的に参加する委員も多くいるようでした。これまで、若者議会出身者が市議会議員になったり、5名の委員が市職員に就職したりと、市政に関心を持ち関わるきっかけになっているという側面がありました。一方、新城市内に残ろうとしても、市内に大学も、働く場所もないため、大学進学を機に市外に出て、就職先も市外にならざるを得ないという、市の経済状況からくる、担い手としての若者が継続的にまちに関われないという課題もありました。

所感

市民の意見を「聞く」として、行政において様々な手法が用いられていますが、予算の裏付けがなされて、確実な実行が約束されているという事業は珍しく、若者の地域への関わり、参加意識を醸成していけるのではないかと、素晴らしい仕組みだと考えます。新城市においては当時の市長公約に基づいて「若者」を対象とした事業となっていますが、若者に限らず、地域の住民、市民が課題を共有し、政策を立案し、政策形成プロセスとして市政に位置付けられるような取組の充実は、あまりありませんし、今後重要だと考えています。全国初の取組として注目を集め、継続的に取り組みながら課題も生じていると理解しましたが、全国の先進事例として課題を乗り越え、立ち上げた段階での意図が失われることなく続いてほしいと思います。

新城市若者議会
新城市若者議会
若者議会の提案でリノベーションされた図書館の様子

公開政策討論会とまちづくり

前市長(穂積亮次氏)4期目の選挙公約に掲げられて条例化されたのが、市長選挙立候補予定者が行う「公開政策討論会」です。全国各地で市長選挙前の公開討論会のような取り組みが、民間の団体主導で行なわれています。もともとは新城市においても、青年会議所やその他の団体が主催する形で実施されていましたが、青年会議所の会員数減少等によって開催が困難になったという経緯から、公開政策討論会検討作業部会などの議論が重ねられて、2020年6月26日条例が制定され、2021年10月の市長選挙の時期に初めて条例に基づいた討論会が開催されました。

正式には「新城市市長選挙立候補予定者公開政策討論会条例」という条例名称で、公開政策討論会を条例化するにあたって「新城市自治基本条例」が改定され、自治基本条例第14条の2に「市長選挙立候補予定者公開政策討論会」が定められています。2021年の討論会はコロナ禍での開催となり、オンラインでの実施とYou Tubeでの動画配信で行なわれていますが、3日間に分けて開催され、生活安心政策、産業政策、人口政策の3つの政策テーマで議論が行なわれています。現在も動画は公開されていて、新な市長が誕生した後でも、公開政策討論会での議論の内容が見られるようになっています。

公開政策討論会の特徴は単に討論会を行うことが目的ではなく、まちづくりにつながるという視点で実施されている点にあります。これから市政を担おうとする「市長選挙の立候補予定者」が、市民・有権者の前で直接政策を訴えることで、地域課題や政策について、市民が共に考える機会にもなり、政策の内容についてもしっかりと議論を重ねられるようになります。市民が自分達の生活に市政がどう影響するのか考える機会にもなり、参加を考える機会になります。

公開政策討論会条例の作業部会は市民によって構成されていて、条例はまさに市民の手で策定されたものとなっています。基本原則として、①知る権利、②公職選挙法の遵守、③政治活動の自由、④公平性・公正性の4つが条例に定められています。市民は立候補予定者の議論の場を設けることで政策等を正しく判断できるようになり、立候補予定者は自身の適性を質されるとともに、自らが市民の中から市民によって選ばれた市長であるいう自負や使命感を強くすることが意図されています。

課題

今年度は市民自治会議に課題の整理について諮問がなされていて、条例の改正についての議論してもらうことを考えているそうです。現在の課題としては、中立公正性を担保するために手続きに時間がかかり、告示前の短いスケジュールの中で調整が大変であり、特に任期満了ではなく途中で市長が辞職した場合に準備ができるかどうか、候補予定者が1名しか居ない場合にどうするか、市民からの質問を今はうけていないが受けるべきかどうか、などの課題が示されました。

所感

新城市の公開政策討論会は、市民の参加という視点だけでなく、当選して市長になっていく可能性がある立候補予定者自身を市民の一員として自覚を持たせて、育てていくという考えのもとで条例が定められてきた点が重要だと考えます。市民によって条例が策定され、市民によって市長が磨かれて、市長自身の責任感、自負心を高めることで、より良い市政を実現し、より良い市民生活、まちづくりを実現しようということは、民主主義の基本ともいえるような取り組みだと感じます。条例で定められ、市が事務を負い、予算措置を行うという方法に、まだまだ課題もありそうですが、仕組みとして公開政策討論会を確実に実行し続けられることが重要です。

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