2014年11月13日、横浜市会の「孤立を防ぐ地域づくり特別委員会」の視察で、静岡市の静岡地域若者サポートステーションにお邪魔しました。今回の目的は、「静岡方式」として注目される、若者の就労支援事業についてお話を伺うことでした。「静岡方式」は「NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡」によって取り組まれ、今回訪問したサポートステーションも、同NPOによって運営されています。
静岡方式の特徴の1つは、拠点を持たないことです。就労に困難を抱える、引きこもりやニートといった若者1人に対し、1人のサポーターが担当者となり、就労までの支援を行います。一般的な訪問型の支援だと、一旦はサポステなどの「場」へ若者が足を運び、そこから自立につなげるという流れになりますが、静岡方式は「場」を持たず、「場」に繋げず、直接就労につなげるという方法をとります。
就労支援の流れとしては、まずは就労支援を希望する若者が、セミナーに参加します。セミナーは年2回開催され、各回は5つのプログラムで構成されます。事前セミナーや、宿泊セミナー、就職基礎セミナーなどが行われます。セミナーでは、コミュニケーション力の向上などが図られていきます。特徴的なのは宿泊セミナーです。理事長が大学教授ということもあり、セミナーには大学生が支援に入ります。1泊2日でワークショップなどを大学生と、被支援者が行っていきますが、双方が同年代という中で、距離感も縮めやすく、コミュニケーションが自然と生まれるように設計されています。
セミナー終了後は、6ヶ月間の個別支援が始まります。まずは6ヶ月後の長期目標を設定し、各月の短期目標を設定していきます。目標の項目は就労に関する目標だけでなく、健康や遊び、生活や対人の項目に別れ、例えば「友達を増やす」とか、「自ら話しかけられるようにする」といった目標が設定されていきます。若者には、1人のサポーターがつきます。会社で上司を選択できないように、サポーターを若者が選ぶことはできません。サポーターも担当する若者がどんな性格なのかなど最初はわからないので、サポートをしながら特性などを見極める必要があります。伴走型支援としてサポーターが行うことは、就労体験先の開拓や、様々な制度の利用支援、定期的な連絡・相談といった内容になります。毎月1回は目標の進捗状況の報告をサポーターが行うことになるので、サポーターは定期的に連絡を取らなくてはならないという面もあります。
サポーターの方々は完全ボランティアとして関わります(2014/11/12現在98名登録)。そのためサポーター毎に、働いている時間や自由になる時間が異なるので、サポーターの出来る方法、範囲での支援が行われます。週1回程度連絡を取り合い、1ヶ月に1度会うというくらいが基本的なやりとりとなり、その間は最初に立てた目標に応じて宿題が課されたりします。サポーターの支援は、担当する若者の希望を聞き、就労体験先を探すことから始まります。例えば、本が好きで本屋で働きたいという意志があれば、サポーターが本屋さんに飛込みで訪問し、就労体験の受け入れをお願いすることになります(体験なので無給)。書くと簡単にはなってしまいますが、就労体験まで至ったとしても、直前までは引きこもっていたり、対人関係が苦手だったりする若者なので、体験先に迷惑をかけてしまってサポーターが謝りに行ったり、勝手にやめてしまったりと、一足飛びに順調にはいかないそうです。少しずつその若者の状況に応じてサポートが行われます。またサポーターは日中仕事をしているという人もいるので、毎日毎日会ってサポートを行えるわけではありません。静岡方式では、サポーターが唯一無二の若者の支援者になるのではなく、サポーターは支援のネットワークの1人と位置づけられ、必要があればハローワークやサポステなどの各種支援組織と連携を行っています。サポーター同士もメーリングリストなどで情報交換が行われたり、直接的に相談をしあったりしながら、互いの経験を生かし合っていると言います。
6ヶ月間の期間中、3ヶ月目の中間報告会、6ヶ月目の修了式が節目となります。参加している若者は、各期間20名ほど。事前セミナーや合宿を経て、同期の仲間としての意識を持ちながら、他の仲間と一緒に目標を達成したいというモチベーションが働くと言います。期間中、サポーターから背中を押してもらったり、動きながら体験したことを活かしながら、6ヶ月の期間終了時には、「就労中、就活中、就学中、就労体験中」という状況に、8割の若者(支援実績300名以上)が到達すると言います。静岡方式の目的は就職ではなく就労であり、働き続けることとなっています。そのため、6ヶ月目の修了式後も支援は続けられ、若者が働き続けることをサポートしています。サポーター個人個人の対応だけでなく、「フォローアップセミナー」として、OB・OG、現役のセミナー受講者、地域のサポーターの方々が交流を持ち続けています。
静岡方式では6ヶ月の間、若者を動かし続ける、前に進ませ続けることに注力され、とにかく就労につながるように支援が行われていきます。若者の自立支援、就労支援においては、神奈川県立田奈高校の「バイターン」や大阪府豊中市の取り組みも、就労という出口に直結した取り組みが行われていました。静岡方式では「お節介」という言葉が使われ、地域のみんなで若者を気にかけながら、ボランティアとしてサポートしようとされています。様々な地域で、様々な主体が、就労に直結した支援を行い、成果を上げてきています。行政の中に置かれた仕組みと、行政の外側での取り組みとがありますが、行政が関わるべき部分とそうでない部分とを切り分けながらも、より成果がある取り組みを支え、促進していくことが重要だと考えます。
全国各地での事例が参照され、静岡方式は秋田県で導入されたり、バイターンも石巻で導入されたりしてきています。取り組みに関わっている主要なメンバーの方々も横のつながりを持ちながら、情報交換、共有も行わています。そういった民間ベースでの連携が、取り組みに関わる一部の人や組織でとどまるのではなく、行政が関わることでより支援が広がり、成果を上げることができる部分があると考えますが、まだまだ行政からアプローチする余地は大きくあるのではないかと思います。
(参考文献 : 若者就労支援「静岡方式」で行こう!!地域で支える就労支援ハンドブック)
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