1対40か、81対40か。親と学校が一体となって教育を行う。

2011-11-14 00:34:10 | カテゴリ:活動報告


上海視察2日目最後の3校目は、上海市第二中学です。1902年に女子学校として創設され、来年で110周年を迎える歴史ある学校。もともとフランスの租界地だった場所にあるため、校舎はフランス式の建築形式となっているそうです(訪問時は改修工事中でみれませんでした)。1994年には上海市教育局から中学生行為模範校にしていされています。中学校は3学年、24クラス、1,200名です。

科学技術を学ぶための英語

同校が力を入れているのは、科学技術。ロボットや模型、発明に関する授業を行っているそうです。科学技術に力を入れる理由は、中国が遅れているという認識に立っているからです。1978年以来改革会報政策がとられているものの、日米欧と比して、まだまだ中国は遅れていると認識されていました。そのため、先進諸国の科学技術を学ばせようとしているのが、国の方針でもあります。そして、そのために必ず必要になるのが英語、なんですね。

またその一方で、中学校で勉強する上で、1つの目標となるのがセンター試験です。センター試験では、英語、国語、数学それぞれ配点が150点で、物理が90点、科学が60点(合わせて150点)であることを考えれば、いかに英国数の3科目が重要視されているかが分かります。世界を見る上でも、進学する上でも、英語に力を入れなくてはならない仕組みが、中国にはあります。

そういった経緯もあり、同校も英語に力を入れています。英語の授業は、国語と同じコマ数行われています。英語を学ぶ環境として、国際交流にも力を入れていました。外国へ生徒を留学させることはもちろんですが、外国の姉妹校から留学生を招き、交流を深めています。ただ、留学には大きな費用がかかるので、行ける生徒は僅かになってしまいます。そこで、外国人の先生を招いて講師をしてもらい、教師にSDP(Skill Development Program)というイギリスの資格(感情などを表現する)を学ばせているそうです。またここでも、読み書きの教材しかなく、教材が不足しているという意見がありました。

親と生徒、親と学校の関係

同校では、予定の時間を大幅に超過しながら、率直な話を校長から聞くことができました。その一つが、親の事です。今回の視察で各学校で質問した項目の一つが、「学校外でいかにして生徒は英語へのモチベーションを保つのか」です。同校で得られたこの問いへの答えの一つが、親の教育熱です。上記の通り中国にもセンター試験があります。自分の子どもをより良い会社、より良い大学へ入らせたい、というのは中国でも同じようで、センター試験の重要科目である英語を、親もしっかりと勉強させたいと考えているということでした。一部の生徒は英語が好きではないそうですが、将来を考えると勉強せざるを得ない。そのため、家庭教師を2名つけた親もいると、説明して下さいました。また、英語嫌いを無くすために、学校も対策をしていて、今年から中学生でも読める小説を教材として利用しているそうです。

そして、もう一つ重要な取組として、学校と親との協力体制があります。2か月に1度親を必ず学校に呼び、1年に1回必ず先生が家庭訪問を行います。また普段から、インターネットや電話を利用しながら先生と親が交流をしているそうです。ここからタイトルにある数字の話です。同校は1クラス40名です。教師は各クラス1名で教えます。そのままであれば、教師1:生徒40です。でも、親と協力できれば最大で、教師・親81:生徒40になります。1人で40人を見るのではなく、教師と親が一緒になって、生徒を育てていく、ということです。そのため、指導方針は親にしっかりと伝えられます。また家庭訪問にも明確な目的が認識されていました。①学外での生徒の様子を知り、家で勉強しているのか、勉強に良い環境かを知る、②親密になり、信頼関係を作る、③学校の情報を親に伝え、親から情報をもらい、学校では言えないことを生徒から聞く、という3つの目的を達成するのが、家庭訪問の役割とされていました。そこには、子どもの学力を高めるには、家庭教育が重要であるという認識が様々な方法で具体化されていました。

一方、中国にもモンスターペアレンツの問題もあるということでした。昔は教師が神様だったが、今は親が神様になっていると。また上述の家庭訪問も、40度にもなる暑い日に回ることもあり、その場合「わざわざ暑い日に来てくれて」と評価する親もいれば、パジャマで出てきたり、麻雀をしている親もいるそうで、苦労も多いということでした。

教師のモチベーション維持と向上

同校では新任の教師には研修プランが用意され、最初のうちはベテラン教師と2名で授業をもつことになっています。2年目以降は常にチェックが行われ、仕事ぶりとポテンシャルの見極めが行われていきます。その上で、優秀な教師に対しては、国や市が協力をして「若手エリート教師」みたいな称号を付与し、より高いレベルの研修を行っていきます。更にその上に何重にもランク付けが行われ、より高い研修、より高い名誉が与えられる仕組みになっています。

また教師としての資格も複数あり、中学二級が4年間成績が良ければ一級に。更に5年で高級教師になります。その上に7階級あり、最高は高級教師一級だそうです。このように、研修や資格にランク分けが行われ、努力すればするほど階級、待遇、ステータスがあがるようになっています。一方では、教師には研修・教育を受ける義務もあり、選んだ科目を5年間で320点取らなければ、階級が落ちていくというペナルティも用意されていました。このように、教師のモチベーションを高めるためにプラスとマイナス両面から仕組みが用意されていました。

英語の教師に限っては、海外で研修を受ける機会が用意されています。授業の運営に関しても、1週間の授業計画を教師同士が協力して準備し、運営のための支援が教育局から提供もされます。会議の場では、具体的な計画を説明し、助言を得る機会にもなり、情報の共有の場にもなっているそうです。

まとめ

如何にして生徒の学力を高めるのか。そのためには、生徒のモチベーションはもとより、教師のモチベーション向上のための仕組みも用意する。教師1人ではなく、家庭とも協力して万全の教育環境を用意する。とにかく、徹底されているなと思いました。

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