義務教育と聞いて、何を考えるでしょうか。
今回上海での公立学校視察を終えて、同じ義務教育課程であり、同じ公立学校であるにも関わらず、日本と中国でこんなにも違うものかと、驚きとともに、危機感を抱き帰国しました。
そこにあった大きな差は、「何のための教育なのか」という問題の設定とそれに対する解答が両国において相当に異なっていることによると、考えます。定められた義務として教育を行っているのか、目指す目的を実現する戦術として、教育が位置付けられているのか。これまでの4校のブログ(1、2、3、4)をご覧いただければ、言わずもがなで、後者が中国です。
関係者の認識と、win-winの関係
国家の成長のためには、科学技術が重要であるという認識。そのためには、先進諸国から多くを学ばなくてはならない。そのために、必然的に英語という手段が重要になってくる。だから、公立小・中学校においても英語に力が注がれる。
家庭においては、親が豊かになるためには、子どもにがんばってもらうという認識がある。子どもがより良い就労、より良い稼ぎを得るためには、十分な教育が必要であるということ。各入試において、英語の配点は大きく、子どもを良い学校に進学させるために、必然的に英語が重要になってくる。だから、家庭においても英語に力が注がれる。
学校の先生にとっては、契約制で厳しい評価がされる環境下で、実力をつけて結果を出さなくてはならない、という認識。そして、子ども達に教育をする教師の力量が重要であるという、教育機関の認識。子ども達に、より良い教育を行うために、外国へ行かせたり、外国人を招いて講師をさせたり、教員の教育に力が注がれる。
教育に関わる全ての人たちに、成長のために教育が必要である、という認識が共有されている環境。義務だから教育があるのではなく、必要な手段として義務化されている。この認識の差が、教育の現場の差になっているのだと、思います。
合理性と人間性
パソコンとプロジェクターを駆使して、「板書」という時間的ロスを排除し、教師と子どもたちが、話し、聞き、会話力を高めることに集中した授業が行われていました。使用している教材に満足できなければ、市が提供しているものであっても、教員同士で話し合って新しいものを創造していくという取り組みも行われていました。授業計画を共同で練り、ノウハウを共有し、お互いに方法に意見し合いながら、授業の質を向上させようという取り組みも行われていました。
上海市の公立学校も、学区制です。人気のある学校は、抽選で選ばれます。入学時点では学力にばらつきがあるのは、同じです。でもその習熟度の差を埋めるために、対策が取られている。だから、公立校でもエリートが排出されていくのだと思います。その「エリート」も、ただ入試を突破できる学力があるという意味での教育結果ではなく、社会に出て即戦力になれるだけの素養を身につける、という意味での教育による結果。
まとめとして
「鏡の国のアリス」の赤の女王の一節に、「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」という表現があります。進化やイノベーションの文脈でよく取り上げられる表現です。生き残るためには、進化し続けなけらばならない、という意味で用いられます。日本の、そして横浜の公立での教育は、中国に大きく水をあけれている。それが今回の視察で明確に分かりました。彼らは正に、授業をより良くするために、より良い教育を提供するために、走り続けていました。大きな、大きな差があります。
でも、埋められない差ではない。100年、200年の差ではないんです。ここ10年程度で、中国は教育を変えてきた。日本に、変えられないわけがないんです。観光客を海外から招き入れることでも、語学力が必要です。国際化が進む中で、より良い取引、より良い就労、より良い経験を得るために、海外へどんどん目が向き、実際海外で活躍する日本人も増えている現在。
「憲法に定められている」という固定化した義務としてではなく、社会環境に応じて目標を設定し、そのために何が必要か分析し、必要な手段を選択していく教育に。変化できれば、まだまだ成長できる。変化しなければ、全力で走らなければ、衰退してしまう。公立学校における教育を、変えたい。その思いを強くした、視察でした。
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